2019-09-10

宮原知子 - 世界一美しい演技

宮原選手の演技を初めて見たのはシニアに上がる前年であった。細かい所まで振付けが行き届いていて、優雅な上体の動きをしながらもスケートはよく滑っているな、と思った。

年々気品高く美しい所作に磨きがかかり五輪イヤーあたりからはスピードも増したようにみえる。「さゆり」「蝶々夫人」「小雀に捧げる歌」「Invierno porteño」などどれも珠玉のプログラムである。

各国の解説者は宮原選手の特質を良く理解している。

イタリア解説は宮原選手はPCSの幾つかの項目では競技者中トップだ、スケーティングはコストナーに匹敵するだろう、とまで言っている。PCSの上限獲得が可能なサトコでも現状ではテクニカルの比重の大きさには勝てないと言うのは英国ユーロ解説。2017年名古屋GPFで一番良かったのはミヤハラだと言ったのはカナダの元ペア選手でオリンピアンでもあるベジック~現在は振付け師でソチまで米国の五輪解説者も務めていた。ジャンプの出来でTESが上下するのは分かるがミヤハラが演技を完全に自分のものにしている点を何らかの形で評価するべき、と明言。

バンクーバー五輪の「インマンメール」で悪名高いインマン氏が何故かこの機に及んで(3月頃)米国ファンのビデオブログTSLに登場してきたが...さいたまワールドについて男子は微妙に自国選手を賞賛しながらも女子ではミヤハラが良かった、ゴージャスなスケーティングスキルだ、PCSでトップ層でないのは驚き、と仰せ。元々大学で音楽、舞踏芸術学を学んだそうでロシア女子の音楽解釈のレベルはゼロ!と言い切ってもいる。高齢になったインマン氏だがローリーニコル氏と2人で現行のPCS草案を作った人物であり氏の高評価は特筆すべきである。

ファンの間でも - 数多のスケーターの中でベストアーティストはサトコ、PCSはトップかそうでなくとも37あたりと75~77になるべきというのが定説。国際試合より高い採点をする他国の国内戦に比べれば控えめな全日本選手権でさえ36と75を出している。

この様に宮原選手のPCSは世界トップクラスと誰もが認めているのにもかかわらず国際試合では絶対に上がらず...良くても35/71。さいたまワールドでの宮原選手のPCSは34/70であった。

PCSは各選手ごとに固定しているように見える。同様に宮原選手の課題、ジャンプが低空でUR気味、もスケート界の人々の意識に完全に定着してしまっているようである。芸術性に関しては高い評価の解説陣も宮原選手の演技が始まった途端にジャンプについてコメントを始めることも多い。

実際一試合で評価される19エレメンツの内訳はジャンプ10、スピン6、ステップ&コレオ3で、基礎点と出来栄え点によるジャンプ得点の占める割合は圧倒的に大きいゆえジャンプ得点が低いとTESは低くなる。

そして世界選手権後に平松氏だったか関係者らが指摘している通りPCSの採点がTESの点数に連動してしまうという傾向がある様だ。すなわちTESの下降に伴ってPCSも下がってしまう。本来独立して客観的に採点されるようにデザインされたIJSであるが、施行から15年経ちTESとPCSの連動化だけでなくPCSの一律上げ下げ等ジャッジの思考や採点のパターン化膠着化が露呈している。

採点問題と改善案は常に指摘、議論、検討されており、またPCSの採点行為はいずれにせよ多分に主観判断によるという事実は広く認められている所である。しかし宮原選手に本来妥当なPCS、37/76ぐらい、が国際試合で出ないのはシステム上の問題だけではないだろう。世界一美しい演技には常に世界最大の障害が待ち受けているのかと思う。

他国の解説者や振付師ら、フィギュアスケートのベテランたちの目には宮原選手のスケーティングと芸術性が卓越しているいることは明らかでも彼らが何等の手を打ってくれる訳ではない。かくして宮原選手のPCSは永遠に上がらないままなのか。非常に残念な事実である。

課題のジャンプについては - 右回りの選手が左回りに強制、身長も低い、と身体的ハンディキャップがそもそもの原因だったと理解している。2017年頭の怪我以来、休養、リハビリ、五輪シーズンを経てジャンプ改造に取り組み、昨シーズンのGPアメリカ杯ではどのジャンプも滞空時間がほんの僅かだが長くなり飛距離や高さも若干増したように感じられた。SP・FS両方ともURなしの結果となった。

その後シーズン終了までノーミスの試合はなく残念な結果が多かったが身体的能力としてはURなしで完全に回りきれる状態まで回復したのではないだろうか。

メンタル面も、以前のように落ち着いてミスの少ない安定した演技ができるようにと思う。五輪シーズンからか「跳び急いでしまう」という解説が聞かれる。高難度ジャンプ時代到来、競技者の低年齢化など焦らせる要素はいくつも出てきてはいる。対応して技術内容をグレードアップすることも良い。同時に環境に左右されずミス・パーフェクト本来のコンシステンシーを見せてゆくことも競技上の戦略であろう。

今季のプログラム、タブラ&パーカッションとシンドラー、はどちらも新たな境地を開いてくれそうな素材である。宮原選手の来し方を見ていると牡丹の花がゆっくりと開花していく様子を見ているような感覚をもつ。シニア7年めになりスケーターとして熟成してゆく姿を存分に披露しながら心ゆくまで好きな道を究めてゆけるようにと願っている。


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