2020-05-22

2020/21 Base Values and GOEs

4Lz、4F、4Loの基礎点

オリンピック後の4Lz、4F、4Loの基礎点設定がこれだけ不安定であるのはそれだけ試合での注目度が高いからか。

2018/19と今季使用された数字は3種の差が0.5点。PDF発行30分前に慌てて決めたのか(笑)と思ってしまった。そして3A(8.0)と3Lz(5.9)の差の方が4A(12.5)と4Lz(11.5)の差より大きかった。ISUのフィギュア部門のヘッド、ラケルニク氏は統計学の専門家と聞いているが一体どうなっているのだろう。

そして来季- 4月6日のカウンシル会議決定事項には「基礎点、レベル、GOEの微調整を近々発行」とあったので若干は上下すると思っていたが、まさか3種のクワドのBVを同じにするとは思わなかった。

何らかの目的があるのだろうが- 3種を同一基礎点にしたのはクワドだけで、トリプルは3Lzと3Fが同じ基礎点5.3で3Loは変更なしの4.9、ダブルは3種ともこれまで通りであり、基礎点は同じでもDGになった場合は点差が出ることになる。

4Lz<< 5.3
4F<<  5.3
4Lo<< 4.9

3Lz<< 2.1
3F<<  1.8
3Lo<< 1.7

179度までの回転不足(<)なら同点で180度(<<)になるとループは基礎点が下がることになる。4回転になるとループはルッツより難しいと言われ、着氷時に1度の違いでDGならば配点は一気に下がる、と配点の一貫性がなくとも問題はないのだろう。新基礎点は北京五輪で使われる数字のはずで慎重に検討されていると思いたい。

qの登場

新たなジャンプ判定基準「q」が設定された。これでアクセル、ループ、サルコー、トーループの表記はそれぞれ4パターン、ルッツとフリップに至っては何と12パターンできてしまった。

3A       8.00

3Aq      8.00
3A<    6.40
3A<<   3.30

3Lz     5.30
Lz    5.30
3Lz<   4.24
3Lz<<  2.10
3Lz!    5.30
Lz!q   5.30
3Lz!<  4.24
3Lz!<< 2.10
3Lze   4.24
Lz  4.24
3Lz<  3.18
3Lz<< 1.68

12パターンの内どれになるかはテクニカルパネルが判定する2つの基準で決まる。

1)離氷時のエッジが正しいかどうかを3レベル判定- 正しい(無印)、Unclear(!)、エラーエッジ(e)

2)着氷時の回転が足りているかどうか4レベル判定- 0度~89度まで(無印)、90度(q)、91~179度(<)、180度以上(<<)

2019/20までは90~179度までを(<)としていたものを90度(q)と91~179度の2段階に分けたものだがGOE減点は厳しくなっている。

2019/20まで
90~179度(<) GOEは‐1か‐2

2020/21
90度(q)     GOEは‐2
91~179度(<) GOEは‐2か‐3

また回転判定には昨年に続く落とし穴がある。回転不足なし(0度)と1度~89度の不足は両方とも無印で表示区別がない、すなわちテクニカルパネルの判断は入らないことである。2020/21の規定では1度~89度はGOE-1と決められている。GOEは9人(B級試合などでは7人以下のこともある)のジャッジが出す採点。つまり無印だった場合9人のジャッジそれぞれが回転不足なし(0度)か回転不足(1~89度)かを判断することになり判定はまちまちになり得る。

2019/20まで
0度(無印) 回転不足によるGOE減点はなし
1~89度(無印) GOEは‐1から‐2

2020/21
0度(無印) 回転不足によるGOE減点はなし
1~89度(無印) GOEは‐1

回転判定は9人のジャッジに依存せず全て一貫してテックパネルが行うのが正しいだろう。採点競技で一種類の仕事を複数のグループに任せるのは良いシステムとは言い難い。

仮に1~89度不足をテクニカルパネルの判定として表記を新たに定めれば回転判定は5レベルとなりフリップとルッツの表記は15パターンに増える。

因みに離氷時のエッジ判定にも9人のジャッジに似たような権限が与えられている。テックパネルの判断では!もeもつかず無印だった場合でもジャッジが曖昧なエッジと判断すればGOE減点‐1をつけられるのだ。昔の文書は手元にないので正確にいつかは分からないが、回転とエッジの判定&採点をテックパネルとジャッジ両方ができるようになったのは随分前からと記憶している。

離氷時のフルブレードとプレロテ

プレローテーションは基準の設定が難しいのではないかと思っていたがトージャンプ(Lz、F、T)のブレードアシストによる似非ジャンプはテクニカルパネルが判定できる内容でルール化を期待していた。

今回明文化されたのは一応一歩前進と言えるが運用は難しそうである。というもの判定はテックパネルの仕事ではなく9人のジャッジ任せとなったからだ。評価結果はGOE‐1から‐3までの減点で表される。

結句2020/21シーズンから9人のジャッジは着氷だけでなく離氷も詳細に評価しなければならずラップトップ程の大きさの画面で一定方向からの映像を見ての判定は大儀な仕事になるだろう。試合ごと、選手ごと、ジャッジごとに異なる判定がされると予想され一貫性はほとんど期待できない。

2020/21シーズンからLzとFジャンプのGOE採点で9人のジャッジ各々が判断しなければならないことは-

1)まず6つのガイドライン項目に基づいてGOEプラスポイントを決める
2)離氷時のフルブレード/プレロテがあるかどうか、ある場合は減点は‐1、‐2、‐3のどれか決定
3)エッジが無印の場合は離氷エッジが曖昧かどうか判断(曖昧と判断したら‐1)
4)エッジが!、eの場合は減点は‐1、‐2、‐3、‐4のどれか決める
5)回転が無印の場合は回転不足が1度以上あるかどうか判断(あると判断したら‐1)
6)回転不足<、<<の場合は減点は‐2、‐3、‐4のどれか決める(qの場合は判断なしでGOE‐2)
7)以上を総合してGOE減点を決め最終GOE点を決める

国際資格を持つジャッジ達はしばしば国内試合でTC、TSをやっていたりと技術&芸術の判定能力と経験がある専門家集団ではあるだろう。しかしテクニカルパネルが一旦無印と判断したルッツのエッジが怪しいか、回転不足が1度以上あるか等々ジャッジの9人が微細にわたって正確に判定可能なのか甚だ疑問である。

審判行為の限界

以上理論のみを追ったが人間の審査行為としては機能不可能の域に達していると思われる。仕事が多すぎ、負荷が大きすぎでテクニカルパネルも9人のジャッジも規定時間内に正確にこなせる量と内容とはとても思えない。2004年に現在のIJSになってから毎年何らかの変更があったが13人の審判員の仕事は増えるばかり。

試合によっては事前のミーティングでフルブレードの事が強調されればジャッジ達の意識は主にそこに行くかもしれない。エラーエッジが多い選手が出場していればエッジチェックに集中。qと回転不足問題が話題となっている国の出身のジャッジはそればかりが気になり他は適当に判断もしくは全く見ない-等々混乱のシナリオはいくらでも想像できる。システムがこれほど複雑になると一貫性が期待できないだけではなく誤審の確率も大きくなる。

2019/20の採点結果にここ数年に見られないほどのばらつきがあったのは現システムがすでに人間の審査能力の限界を超えていることを表しているのではないかと思う。今回の変更でばらつきの度合いはより大きくなるだろう。その上慣習に基づく不文律、更にはバイアス&忖度が入る訳でSPとFSの終了後出てくるPDFはますます不可解なものになると予想される。

解決策はいくつもあるはずだ。規則の増加に伴いマンパワーも増強すれば良いのかもしれない。確か2018年のISU総会だったと思うがGOEとPCSを判定するジャッジを分ける、という提案があった。5人ずつにすればジャッジ総勢10人で椅子を一つ増やすだけで済む。7人ずつだと審査員団総勢18人で多すぎか。全く検討される気配がないAI導入、複数カメラ導入も提唱されて久しい。

基礎点とガイドラインは毎年今頃発行される。現状ではどの国際試合も開催は未定であり延期か中止がほとんどと予想され来年5月を待たずに不備な点などの微調整があるかもしれない。

新ルールの試験台

2019年のチャレンジャーシリーズ初戦はACIで日本からは羽生選手と紀平選手が出場した。採点結果をみて新ルールの実験台だったのかと思った。経験の少ないオフィシャルをテクニカルパネルに投入したり新ルールを乱用したりと選手と試合が試験的に使われたように感じた。世界の上位選手が出れば高度な技術と豊かな芸術性が期待されルールの試運転に最適な状況を作ってくれる。バイアスと忖度を発揮する絶好の機会でもあるのだろう。

2020/21の初戦は9月に北京でのアジアオープン。五輪の17か月前であり多くの選手が出場を希望をするだろうか。それとも中国の試合は敬遠されるか。練習と準備も含めて全てはCOVID19情勢にかかっている。

3Lzと3Fの基礎点が同じになり紀平選手にとってはフリップを得意とするコストルナヤ選手に対する僅かな基礎点アドバンテージがなくなっていまった。試合で3Lz3本を入れられるアドバンテージがなくなり3Lzを3本は跳ばない選手との基礎点の差が縮まってしまった。

コストルナヤ選手のGOEとPCSはすでに紀平選手を大きく上回っているゆえ勝つことがより難しくなり、3Aやクワドなしで3F3本の選手でもGOEとPCSが高ければ紀平選手に迫る得点が出やすくなったといえる。

エラーエッジに対するGOE減点もこれまでに比べて甘くなり紀平選手が正統ルッツと正フリップ両方を持つアドバンテージまで小さくなってしまった。

2019/20まで
! GOEは‐1、‐2、‐3
e GOEは‐3か‐4

2020/21
! GOEは‐1‐2
e GOEは‐2、‐3、‐4

どうやら今回のルール変更は紀平選手を完全包囲したようだ。

紀平選手は3A3本と3Lz3本を入れてキレイにきめられるだけではなくスケーティングも素晴らしくエッジワークは絶妙。「スカートをはいたハニュウ」とのロシアメディアの言は3A3本の事だけではなく総合能力を見抜いた上での賛辞だったと思う。

2020/21シーズンにクワドを入れられるかどうかが北京表彰台への明暗を分けるカギになるか‐と思っていたのはCOVID19到来以前。今は練習環境確保と国際試合開催そのものが危うくなり選手たちは皆スタートラインに並んだようにも思える。

2019/20のワールドランキングには男子134人と女子150人のスケーターがリストされている。この内何人が競技を続けられるだろうか。ISUの指針と方向、これまでなかったような内容のルール改定、メディアの価値観、各国・地域行政の対応状況、そして何よりもアスリートの調整具合など全てが混沌とした状態にある。前例のない試練だがチャンスでもある。

先が見えない状態にあって工夫をしながら鍛錬を重ね630日ほどの試練を着実にくぐり抜け北京五輪に辿り着けるアスリートは誰だろう。混沌から這い上がってくる選手が何人いるだろうか。観戦する側としても予測できない状況を不安と期待を持ちつつ見つめてゆこうと思っている。

2019/20シーズンの基礎点とガイドライン

ISU文書:2253 SOVs Season 2019/20

ISU文書:2254 Guidelines Season 2019/20

2020/21シーズンの基礎点とガイドライン

ISU文書:2323 SOVs Season 2020/21

ISU文書:2324 Guidelines Season 2020/21

重箱の隅をつつくような内容を投稿できるのもCOVID19のお陰で時間ができたゆえ。数字と記号ばかりの記事となり最後まで読んでくださった読者の皆様に感謝したい。


Update Notes)

2020年7月8日

ISU文書2323と2324はキャンセルされ、2020/21シーズンに適用される基礎点とガイドラインは2253と2334と発表された。これに従い当記事の次の2パラグラフで紹介したルール部分は無効となる。

4Lz、4F,4Loの基礎点
離氷時のフルブレードとプレロテ

ISU文書:2334 Guidelines Season 2020/21


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ご訪問ありがとうございます。

皆さま十分気を付けられてご健康ご無事であられますように。





1 comment:

  1. To: Unknown 6/01/2020 12:52 PM

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