2020-09-14

テストスケートとペトレンコ氏インタビュー

テストスケート

コリヤダ選手が良かった。何しろスケーティングが美しく底力を感じる。ロシアカップまでには構成も上げてきそうで楽しみだ。コリヤダ、トクタミシェワ両選手のルッツには正統で美しい技術が存続していることを確認できていつも安心できる。

ワリエワ選手がシニア試合に参加できて良かった。 国際試合の少ない今季、シニアの強豪たちと試合で競えるような計らいは重要。エストニアJワールドの時も良かったがこうしてシニア戦で観ると勝負心の強さが伝わってくる。やはりスピンが凄い。端正で美しい。

以前から気になっているのはコンビネーションジャンプでのジャンプとジャンプの間のエッジの動き。セカンドジャンプを跳びやすくしているのか、癖なのかそれとも意識してやっているのか、技と言えるのか、技と見なされるならPCSのSSが上がる対象になるのか、評価が下がる対象になるのか- 等々分からなかった。

これまで見た覚えがなくワリエワ選手が初めてかと思っていた所、5月に一度発表されたルール改定にGOE減点の新項目としてコンボジャンプ中のエッジチェンジが追加された。ワリエワ選手はSP・FSのコンボ全てでやっているように見え、これで4エレメンツにGOE-1から-2が付けられるかもしれず北京へ向けて練習?矯正?をするかと予想していた。

7月に改定の大部分が取りやめになりエッジチェンジも減点対象から消えワリエワ選手にとってはラッキーだった。減点対象になり得る動作ならばルール改定がなくなっても修正したかもしれないと思い今回どう跳ぶか見所だったが変わっていなかった。SPの3Lz+3T、FSの4T+2Tと3Lz+3Tではファーストジャンプの着氷右足で器用にもエッジを変えている。3F+1Eu+3Sではオイラーの左足でもやっているように見える。

ISUは妙なことをよくやる(笑)ので一度は減点対象にした内容をいきなり加点対象にするのではないかとも想像される。「コンボの最中にエッジワークができるというスーパースケーティングスキル!」等とジャッジ教育で啓蒙すればワリエワ選手のPCSは確実に上がる。あちらがアマノジャクならばこちらも邪推が多くなるというものだ(笑)。

コストルナヤ選手は体調が良くなかった様子だがスケーティングはやはり一番だった。他の女子6人とは格段の差である。

トクタミシェワ、サモデュロワ選手もよくやったと思う。メドベージェワ選手は毎年テストスケート時はそれ程仕上がっていない印象で今回は故障もあった様子。アイスエイジの司会を希望していたらしく(サンボ70が許可しなかった?)練習も詰めていなかったのかもしれない。

トルソワ、シェルバコワ選手も良かった。当たり前だが毎年テストスケート時に身体が成長しているのが分かる。身長が伸びてもジャンプは同じ技術で跳べているようだ。北京五輪時には皆どうなっているかと思う。

北京五輪シーズンのトップ女子選手たちの年齢は-


紀平選手は五輪イヤーを18才で迎え五輪開催時には19才となっている。ワリエワ選手の15才からアメリカのベル選手25才まで10才の差があり多彩な演技が期待される。

ロシアの力

この時期に試合形式でSPとFS両方を披露できること自体が選手たちのレベルの高さを表している。今週末からロシアカップが始まり今回一番仕上がっている様子のシェルバコワ選手が出場しメドベージェワ選手と共に2週連戦となる。ワリエワ、アカチエワ選手らも出場予定らしい。

世界中で社会機能全般がスローダウンしている状況にありながらロシアは合宿に始まり各種の試合開催を進めている。国家体制の堅固さが見えるようでサスガと思う。「2週間の長い隔離が-」「マスクをしない権利が-」等と論じている間に2週間は経ってしまう。ロシアは忍耐強く着々と計画を立て一つひとつ確実に実行している。

同時にメディアは細かいニュースを報道し続けファンが喜び飛びつくような話題を間断なく提供。テストスケートでは舞台裏の様子、演技中のコーチ映像、演技後のインタビューなど全国選手権並の放映で盛り上げへの注力も徹底している。

これまでのモスクワチャンピオンシップ、ジュニアテストスケート、シニアテストスケートなどは全てユーチューブでジオブロックもかけず?無料ライブ配信。現地では無観客の方が良いと思うが試合を見たくてウズウズしている世界中のスケートファンには嬉しい限りである。これから続くロシアカップ、ロシア選手権も同じように観れるのだろう。

パンデミック対策も感染検査、隔離、衛生管理など手順や規則がきっちり決められていて施行は厳しいトップダウンで- と想像していたがテストスケートを見る限りでは対応は極度にルースというか人々の行動は制限されていないようだった。リスクの高い高年齢のコーチらもマスクなし、客席、リンクサイドやジャッジ席は混雑- あたかもCOVID19とは数年共存し慣れていて集団免疫が既に出来上がっているかのような雰囲気である。

先日アメリカの知人数人と話していて- ワクチンができても日本などでは全員接種を強制できるシステムとそれを受け入れられる国民性があるがアメリカではシステムもなく又個人の自由を主張する心情・習慣からも強制はほぼ不可能でパンデミックは長期的に存続しそう、となった。大雑把な見方と表現だが米国は一般的にボトムアップ型といえる。

スポーツ界も同じだろう- 練習は選手・コーチの個人的なイニチアチブで全米のあちらこちらのリンクでやっている様子。2、3あった試合も開催はクラブ等によるプライベートベース。全国のトップが集合する標準形式の試合は米連盟が地方の行政機関と連携を取らねばならず機構上からしてほとんど無理か。感染者&死亡数の現状からしてもイベント系の開催は難しいだろう。

日本はブロック大会、全日本ノービスとジュニアなどが予定されている。通常のショーをテストスケート的に開催したりと細かい事柄を協議・計画している様子。フェースガードをジャッジに付けてもらった様な事もニュースで読んだ。ともかく試合は全て無観客で安全第一の運営を願っている。大きな試合は有料でもよいのでジオブロックなしのビデオ配信にすれば例え安価でも世界中のファンからのアクセスでむしろ通常よりも増収となるのではと思ったりしている。

こうして各国を見ればロシアは2歩も3歩も先を進んでいるようだ。世界共通の危機状態の下ではまさに国家体制の違いがものをいう時なのだろう。シーズンを終える頃には大差がついているかもしれない。そしてメディアの働きはすでに功をなしロシア選手に対する注目と称賛が私たち観戦者を含めてフィギュア界の人々の心を占めるようになってきている。

感染防止対策に関しては大きな疑問が残る。あの状態でこれからの試合も開催されるのであれば多かれ少なかれ確実に感染が拡大する。試合後会場に集った人々の追跡調査があるはずもなく恐ろしい結果を招く悪い前例を世界中に示してしまったと思う。

ペトレンコ氏のインタビュー

1992年アルベールビル五輪男子チャンピオンのビクトル・ペトレンコ氏の7月末頃のインタビューをやっと見た。ビデオブログでお馴染みのTSLによるもので自分の教え子にインタビューされてリラックスした雰囲気で種々語っている。

スケートの楽しさ、オクサナ・バイウルの支援、アルベールビル五輪への靴の問題、3回目の五輪でのアクシデント、ロシアのトレーニング方法、コーチとの関係、ジャンプの技術と現況、伊藤みどりさん等当時の選手の思い出、現役・ショー・コーチ業の経歴などとても良い内容だった。

羽生選手の4Aと選手時代の挑戦する心についても触れていた。

・・・ハニュウの4Aは可能だ。彼のアクセルのテクニックは素晴らしい。十分な高さと回転の速さを持っている。自分も18才だったらやってみたい。常に新しいことにチャレンジし達成し続け、成長し続けることが現役をやる本義。怪我のリスクがあるのは分かっていても誰もやったことがない技に挑戦したい気持ちがエキサイティングで楽しい。自分は限界に挑戦し過ぎて怪我が多かったがこの年齢になり振返ってみて言えるのは、出来た・出来なかったに関わらずベストを尽くして挑戦したことが当時も今の自分にとっても大事だということ・・・

競技であれショーであれ氷上に立つ時はいつも五輪チャンピオン・世界チャンピオンと呼ばれるに相応しい演技をしようというのが自分の信条だ、とも語っている。

頂点を極めた人々の言には学ぶことが多い。

普段あまり公に出てくるイメージがなかったペトレンコ氏。五輪金に輝いてもその後の人生をどう開いていくかは人それぞれであり氏ほどの年齢(51才)になれば人間としてどう生きたかが人格に如実に表れてくる。話を聞いて真面目で実直、温厚な人柄がよく分かった。ソ連を代表し崩壊後はウクライナ人として競技参加してきたアスリート体験を持つ氏の心にはたくさんの宝が詰まっているようだ。氏のような人物がアメリカの片隅で指導者として貢献しながら現在もフィギュア界で活躍していることを有難く思えた。

ビデオ:ペトレンコインタビュー

そういえばザギトワ選手は18才の若さで何とか自分の道を切り開こうと奮闘している。まだ試合で演技を観たいというのがこちらの正直な心情だが健気な姿にエールを送りたい。

そして- 先月ISUの道徳規範の最新版が発行された。元五輪金メダリストの差別暴言が出た直後であり正にその内容が禁止事項として第4条に追加されている。内容の変更点は他にはなくISUは迅速な対応をしたことになる。規範を決めても実施は難題続きに見えるセーフスポーツの推進は以前も書いた(2019/20 Season in Review 2 セーフスポーツとクリーンスポーツ)ように時間がかかる作業であり連盟組織が率先して行動する所から始まるのだろう。

ペトレンコ氏のインタビューはオリンピックメダリストと言っても生き方は様々であることを再認識させてくれた。また現チャンピオンの羽生選手、ザギトワ選手たちも朗らかで幸福な人生を送れるようにとあらためて思った。


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ご訪問ありがとうございます。

皆さま季節柄お身体を大切にされ安全に過ごされますように。



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