三人を泣かせた三人
ワリエワ選手とシェルバコワ選手だけでなくトルソワ選手も大人を泣かせた1人だと想像している。
トルソワ選手の演技- ロミオとジュリエットの物語のことではなく一生懸命に演技している選手の様子に感動した。昨季のロシア選手権で演技後氷から上がってきて涙があふれていた姿を思い出しつつ、今回はクワドを2本に留め全てのジャンプを確実にきめステップも力強くほぼクリーンに終えた様子に大きな前進と成長が見えた。総合結果は3位だったが昨季のような悔いは残っていないだろう。
泣いた大人の3人は- まずヤグデン氏。トルソワ選手の直後ワリエワ選手がボレロをクリーンに終えると解説の感極まった声が聞かれ、すかさず解説中のヤグデンにカメラが向けられた。ロシア語は分からないが相棒の解説者が「とても素晴らしかったよ、素晴らしかった」と相槌を打っているようである。感激はきっとトルソワ選手の演技から始まっていただろうと思った。
そしてシェルバコワ選手の演技終了後には何とトゥトベリーゼ、グレイヘンガウス両コーチが泣いている。後で知った事だが体調が良くない中での演技だったようだ。
3人とも自信と歓喜に満ち溢れていた。ノーミス演技が3人続き観る者の感動を倍増させた。
技術面は- シェルバコワ選手のLzとFの問題はシニア2期目になって改善が見られない。左足のエッジのイン/アウトの問題だけでなく右足のトゥでなくブレードを使っていることでまるでLzでもFでもない全く別のジャンプを跳んでいるようだ。ジャンプの新種登場!
ワリエワ選手のLzとFもシェルバコワ選手ほどではなくとも似た様な状態に見える。SPとFSでLzとFが正しく評価されれば2人とも得点が下がり、総合順位は全部で8本のLzとFを跳んだシェルバコワ選手をワリエワ選手が上回り優勝したと思われる。
トルソワ選手も同様でFの左足エッジとLz&Fの右足ブレード使いが問題に見えるが3人の中では一番軽症か。試合によっては今回より良かったこともあった記憶。
TC(テクニカルコントローラー)はまたしてもラケルニック氏。男子、女子両方に入っている。プルシェンコ氏がトルソワ選手のアピールでラケルニック氏と一緒にビデオを観たという報道が出た。たとえ国内選手権のTCへのアプローチだとしても結果としてラケルニック氏が認識、認定する内容はISUフィギュア部門のトップとしての見解として受け入れられいずれかは啓蒙され徐々に標準化してしまうのかと想像している。
昨季は日本人のISU役員が似た様な轍を踏んでいた訳で立場の違いを理解できないのはフィギュア界の要人に共通する慣習なのだろうか。
感染したシェルバコワ選手
GPロシア杯を棄権したシェルバコワ選手は当初は肺炎という事になっていたが後にコロナに感染していると報道されていた。その後陰性になったらしい。
ロシア選手権のSP前に発熱していた、FS前は検温を拒否した、と報道されたのは試合終了後である。
シェルバコワ選手の行動はアスリートのスポーツ精神に全く反するものである。ドーピング問題もそうだが勝って栄光と歓喜に浸りたい欲望を人間の基本である健康を絶対的に脅かす危険に優先させたのは全くのエゴである。16歳の若者に社会に危険をもたらす可能性のある罪を犯させてしまっている。その上本人はその事が分からない。この様な経過でアスリートとして育ち、いずれ年配になり連盟などの役員になってはドーピング問題の理解も疫病・公衆衛生への配慮もできる訳がない。
病気をおして出場し優勝したという人情ストーリーなどCOVID19の破壊力の前には影を潜めてしまう。あまり感情を表に出さないトゥトベリーゼコーチが涙するほどの状況とその心情は誰でも理解できるだろう。観る方にも大きな感動を呼ぶ。しかし現況パンデミック下では下手な茶番劇にも劣るちっぽけな感傷である事を知らねばならない。国内選手権を3連覇した事実よりも感染拡大に貢献する行動を公にした事実の方が数百倍も重いのである。
ロシア連盟はその根性をアスリート魂として買ってくれるのかもしれないが良識ある人々と秩序ある世界には通用しない。
両親、コーチ、チームメンバー、連盟など「誰の責任か」を問う事は重要だろうが、それにもまして大切なことはCOVID19に対する一般の理解を助けることではないか思われる。というのも目に見える会場の様子やメディアを通じて聞かれる幹部らの発言内容などからしてロシアの人々がCOVID19の恐ろしさをよく理解していない事が明らかであるからだ。
テストスケートに始まり試合の杜撰な運営はあからさまだった。パーティーを楽しむ選手たちの姿もわざわざネットに上げてくれるお陰でよく知られている。多くの上位選手がCOVID19に感染したということは他の無名の人々にもかなり広がっていると想像されるが、あれだけたくさんの選手が感染しても今回シェルバコワ選手の行動を許したことからするとどうやら懲りていないようである。このウイルスの疾病力と伝染力を理解していないと思わざるをえない。無知というのは恐ろしいものでこれから益々感染が拡大するであろう。大国ロシアのこの様な姿には残念に思うだけである。
更には- こうして一連のロシアのオペレーションが世界中に知れてしまったにも関わらず、欧州選手権と世界選手権を予定通りできないのなら我が国で開催できる、とまで言っているのはタラソワ氏。
2011年東北大震災のため日本開催予定だった世界選手権が中止になってしまった折にロシアのお陰でモスクワ開催が実現したことがある。安藤美姫さんが2回目の優勝を果たした大会だ。しかし今回は全く事情が異なる。一地域の問題が原因なのではなく世界共通にはびこる感染病が原因でスポーツ試合やエベントなどが延期、中止もしくはバブル方式などによって特別開催されているのだ。
これまで世界に映像を通して知られてきたロシアの運営状況と感染状況に加えて今回シェルバコワ選手の事情が判明し誰もロシアに国際試合をやって欲しいとは思わないだろう。少なくとも個人レベルでは選手もチーム陣もロシアに行きたいと思う人は少ないのではないかと想像している。
ヌレエフ
コリヤダ選手のプログラムに惹かれて映画「ホワイト・クロウ」を観ることにした。昨年封切された折には映像主体でストーリーラインは薄い印象で興味をそそられなかった。
内容はヌレエフが23才でフランスへ亡命するまでの半生を描いている。英国ロイヤルバレエ団でマーゴ・フォンテーンと組むようになる以前の物語である。
美しい映像は予想通り。舞台の場面はもっとひいた映像の方が良いと思った部分もあった。公演旅行を終えてフランスの空港から出国する寸前に空港警察に亡命を求めるシーンがクライマックス。そこに至るまでゆっくりと1人の青年の成長と芸術へのひたむきな情熱を描いている。
今回はミーシンコーチが映画のサウンドトラックと知らずに音楽を気に入ってアベルブフ氏に振付けを依頼したらしい。クラシックバレエの所作とヌレエフの情感がよく表現されていて心を掴む振付けと思う。
ミーシンコーチはロシア文化を深く理解し誇りに思っているのだろう。折々のインタビューにも感じることである。ニジンスキー関連もプルシェンコ氏のプログラムだけでなく、コストナー選手の平昌五輪シーズンのFSも「牧神の午後」を題材にしていたのはミーシンコーチの案だったと想像している。
当時の様々な分野における亡命行為を今のロシアの人々はどのように捉えているのだろう。アーチストにとって東から西への脱却は限りない創造性の自由を求めての大跳躍を意味していたのか。国にとっては当時は芸術至宝の流出と捉えられていたのだろうか。いずれにしてもロシアの個々人の心情は資本主義、民主主義にぬくぬくと生まれ育ってきた者には理解が難しい側面がある。
ロシア選手権を観たのは映画観賞後。本国の人々はこちら以上の感慨をもってコリヤダ選手の演技を観ているのかと思いながらだった。これで5試合めの演技でありロシアの文化芸術の豊穣な大地に生まれた作品を観ているという感覚を持てた。
ヌレエフ、ミーシン、コリヤダ、アベルブフらのお陰で複雑な大国ロシアへの理解をまた少し深めることができた感がしている。
世界選手権代表は?
シェルバコワ、トルソワ選手に続く女子の3人めはトクタミシェワ選手か、それともコストルナヤ選手か。2月に予定されているロシアカップファイナルの後決まるのだろうか- ロシアカップファイナルというと2018-19シーズンを思い出す。トクタミシェワ選手はメドベージェワ選手が3A2本に勝てることを証明するために出場させられたように見えた。SPの3Aは転倒だったが高得点。FSも妙に高得点だった。そしてメドベージェワ選手がトータルで大差でなく僅かに上回り優勝となった。さいたまワールドの優勝候補は紀平選手だったゆえ3A2本構成よりも僅かだが確実に上に行けることを印象付けるためにトクタミシェワ選手が駆り出されたのだろうと思ったものだ。オーサーコーチも色々と苦心したのだろう。
今回はどうなるか。トルソワ選手も含めて3人の内から2人を選ぶことにするのかもしれない。世界選手権は開催自体が危ぶまれる所だが代表選出は例年通り行われるだろう。再び、たっぷりと、ロシアのドラマが展開し報道されることが今から予測される。
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