2021-01-12

全日本選手権など

女子の熱演

宮原選手のトスカは編曲も振付けも素晴らしかった。気品ある演技はファンタスティコ!最初のポーズは絵画を見ているようでカバラドッシがトスカを思いながら肖像画を描いていたことを想起させた。

トスカの美しい歌声 Vissi d’arte, vissi d’amore(歌に生き、愛に生き)で始まりカバラドッシのアリア E lucevan le stelle(星は光りぬ)も上手く組み込まれていて自らの命を絶つトスカの最期を振付けと共に劇的に表現している。蝶々夫人もそうだったが宮原選手の演技には物語の内容と音楽の流れをよく解釈していることが表れている。そういえば16-17シーズンのラ・ボエームも良かった。プッチーニの音楽と相性がいいのかもしれない。

今更だが- パッケージングはいつも最優秀賞の宮原選手。今回スピンは両方向回転がなかったがステップ、トランジション共申し分ない。欠けているのはジャンプだけである。分かってはいても競技となれば勝つことは難しくもどかしい思いは数年来同じ。

紀平、河辺選手がFSでスピンの出の方向を間違えた様子だったが宮原選手も最後のレイバックスピンの出がMOIのアンコール演技では反対向きだった。どちらが間違いか- MOIの方が本来の振付けのように見える。

河辺選手も生き生きとしていてダイナミックな演技が印象に残った。松生選手とは同年同月生まれで昨季と今季の全日本Jチャンピオンとしてタイプの違う2人がこれからどう前進してゆくか楽しみになった。

河辺選手の技術内容は樋口選手と同じレベルで紀平選手に続いている。スローで見たFとLzのエッジが気になった。

松生選手の滑りはN杯の方が良かった。清楚なイメージは良いがパステルのソリッドカラーの衣装はそれだけで子供のイメージとなってしまう。しかもSPとFS両方ピンク系、似たようなデザイン、同じ雰囲気で幼さが強調される感。

身体能力が高い紀平選手にはどんどん難しいステップを振付けてよい、紀平選手ならこなせると思う。昨季のボーンSPも良かったがリショーSPは更に複雑になったようだ。

遂に4Sが決まり3Aも入れられて本当によかった。スケーティングが昨季より力強くなったように見えた。昨季後半からかUR気味に見えるジャンプが出てきている。衣装はどちらも今一つと思った。

圧巻の演技

羽生選手の演技についての賛嘆の言葉は出尽くしていて同じことの繰り返しになってしまうが-

各エレメンツの完成度の高さは言うまでもない。スケーティング、トランジション、パフォーマンスは他のどの演技よりもずば抜けて洗練されている。試合後それぞれを選んで動画で見るのと違いライブだと前後の選手と質の違いがよく分かる。

SPでは大胆に動き大きく滑りながらも歌詞に合わせた細かい動きをしている。SP・FS両方とも役になりきっていてプログラムのハートがストレートに伝わってくる。

GPS欠場を公表した長文の内容からして羽生選手が全日本に出場する理由は見当たらなかった。出るとしたら感染拡大回避をある程度妥協し自身の感染リスク増大を覚悟することにもなり、どれ程恐怖かと想像していた。

しかし出場する以上は恐怖心に縛られて力を出し切れなかったり身の回りを整える細かい準備が疎かにならないよう、競技にはあくまでも全力で当たり長野への移動に始まり特に会場入場後は常に細心の注意を払いながら試合に臨んだのだろう。言ってみればいつも試合でやっていることなのかもしれないが身体調整に加えて気疲れも倍増しそうである。

演技には焦りも不安も感じられなかった。むしろ普段より精神的には落ち着いているように感じた。メンタルの強さは昔から知られている羽生選手だが精神的にはかつてオーサーコーチが「ゲート前の馬のよう」と表現していたようにいきり立つような勝負魂が見えることがある。

今回はメンタルの強さはいつも通りでも精神的にはあのSPでさえも静観しているような感触だった。試合後のインタビューで謙信公の半生に関連して出家、悟りという言葉が発せられていて羽生選手らしく色々考えて闘ったのだろうと思った。

ネットに写真を上げた紀平選手

ここの所、紀平選手のツイターに首をかしげることが何回かあった。年明けの集合写真もその一つ。ここ7年間の全日本女王ら多くの選手が写っている。問い合わせへの返答と思われる内容まで流している。

先般のロシア選手権でのシェルバコワ選手と同じで18歳とは言え残念である。

直後に羽生選手から出てきたメッセージは内容は医療関係者宛てだったが直筆をみると予感通り紀平選手への呼びかけである事が一目瞭然、と勝手に思ったものだ。MOIで「2人で頑張って」盛り上げようと励ましたとの報道を思い出した。

紀平選手は何しろ無邪気で可愛い。悪気はないのはロシア女王と同じだろう。久しぶりに帰国して皆と集えて嬉しかったのか。他の選手を先導して撮ったのか。規制がゆるいスイスでの習慣が影響しているのか。あれこれと楽しく嬉しい心情は容易に理解できる。

COVID19の恐ろしさを分からないだけではなく日本のチャンピオンとして公に集合写真をネットに上げる行為の重さを理解できないのだろう。たとえ未成年で若くても責任感があり自分の影響力を自覚しているトップアスリートはたくさんいる。

前記事にシェルバコワ選手の件で綴ったのでこれ以上は省略するが、こういった行為は確実に感染拡大につながる。無知とは恐ろしいものである。全日本チャンプが率先して写真を撮りネットに上げると他の選手、関係者、それを見た人たちの気が弛み結果として感染拡大を助長させることになる。無邪気さは時に大きな危険をもたらすものだ。

パバロッティ

映画「Pavarotti」を見た。小学校の先生だったパバロッティ氏がオペラ歌手になり活躍する一生を綴ったドキュメンタリーである。

トスカの「星は光りぬ」は氏の真骨頂。2004年68歳で最後のオペラ出演となったのもNYメトロポリタン劇場でのトスカのカバラドッシ役だった。映画に出てくるのは2000年ローマでドミンゴが指揮をとった公演。歌い終って感情の高ぶりが収まらないパバロッティと喝采が止まらない観客- ドミンゴが一旦次へ進もうとするが観客の拍手が続き留めている。ユーチューブに上がっていた。

ビデオ:2000年1月14日 ローマでの「星は光りぬ」

死刑を宣告されたカバラドッシの「星は光りぬ」の歌詞の最後は

E non ho amato mai tanto la vita, tanto la vita!

英、日訳は

I have never loved life so much, loved life so much!
今ほど命を恋しく思うことはなかった!

となっている。晩年のパバロッティ自身の思いが重なっているのではと思わせる渾身の歌と演技である。

こちらはニューヨークのジュリアード音楽院で特別講義として学生歌手に「星は光りぬ」を指導する43歳のパバロッティ。言葉のアドバイスを超えて歌い出している。映画にも一部出ている。

ビデオ:1979年1月 ジュリアードでの「星は光りぬ」指導

パバロッティのトレードマークのようになっているのはトゥーランドットの Nessun dorma(誰も寝てはならぬ)。トリノ五輪の開会式で荒川静香さんが聞いて励みになったというのはパバロッティの歌声である。亡くなる1年半前で最後のステージだった。実際は生演奏ではなく事前に録音されていた演奏を使ったらしい。

ビデオ:2006年2月10日 トリノ五輪開会式での「誰も寝てはならぬ」

映画の方はトリノの映像ではなくローマ(おそらく三大テノールコンサート)での「誰も寝てはならぬ」熱唱で終わりエンドクレジットとなる。

パバロッティの歌には全身全霊の感情が込められていて心に響く。歌詞とメロディに天賦の声を捧げ役に応じて自由自在に歌い上げている。歌うことを人生最大の楽しみとしていることが伝わってくる。恰幅のよい巨体から発せられる声は豊かで艶がある。周りの事物を揺るがすような力強い響きがある。一度聴いたら忘れられない音声である。

声帯は生まれつきのものだがパバロッティは天賦の声を生かしながら技術も徹底的に研究し極めたという話も出てきた。

アーチスト特有の気性の激しさも持っていたようだが映画ではあまり触れられていなかった。ダイアナ妃との邂逅、ボノ等ポップアーチストとの交流、家族の話などを通して子供のように無邪気で純粋な側面も描かれている。

邦題は「パヴァロッティ 太陽のテノール」- 歌声で世界を明るく照らした一生を追ったドキュメンタリーにピッタリだ。

アーチストとして頂点を極めた人々は極めた芸だけではなくその人生、生き様も感動を呼ぶものである。パバロッティの一生も色彩豊かなものだったと感銘した映画だった。


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ご訪問ありがとうございます。

皆様にとって2021年が平和で明るい年となりますように。
Happy New Year!
Bonne année!





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