2022-02-24

北京五輪3 4回転アクセル

4Aと天と地と 

普段は言葉が多すぎるが(笑)今は言葉を失っている。

SPもFSもEXもどれも羽生選手の魂魄を留めるような極上の演技だった。

FS前日の練習で怪我をしただろうことは当日午前中の練習ですぐ分かった。

2019年トリノGPF、2021年WTT、昨年の全日本、そして北京の練習で跳んだ数本- FS本番での4Aはこれまで見てきた中で一番の出来だった。アクセルのオーソドックスな入り方もプログラムと聴衆に親和性があるように感じた。9才の時の跳び方、と後でインタビューで知った。

ルッツとループをやっても勝てないことは分かっていた。勝たせてもらえない。

ルッツとループ、もしくはループだけで極限まで追い込み各エレメントの質やスケーティングの良さやトランジションの豊富さを詰め込み最高水準の技術を持って極上のアートを氷の舞台で演じても採点では報われず勝つことはできない。

アンベージ氏が言う通り真っ当に採点されれば殆どの試合で勝つはずでも採点する側が勝たせないことは再三の試合で明らかだった。

羽生選手は4A挑戦の機会を北京にかけてきた。普通は練習で1度も成功していないジャンプなど誰も試合でやったりしない。ましてや五輪の場で未完の技をやるなど他のスポーツでも聞いたことがない。各要素の質と演技の完成度を重視する羽生選手がやる事ではない。

北京での練習でもやっとUR近くになるDGがほとんどだったと思う。一度もクリーンに着氷したことのないジャンプを五輪の氷上で跳ぶ- どれ程の勇気と覚悟か想像もつかなかった。

イチかバチか試したのではない、五輪の場をフィギュアスケートの夢を実現する場に選んでくれた- と勝手に捉えている。羽生選手にしかできない選択である。他の試合ではなく五輪を選ぶとは最高に贅沢な選択。他の選手にはできない。

五輪の場というアスリートにとって最上の舞台を使って自身の最大の力を引き出すことに挑んだ姿を有難く思った。五輪で前代未聞の挑戦をライブで観れて歓喜、感激した。

「天と地と」は5戦目の今回が一番良かった。プログラムとしての意義と感動は最も鮮明だった。

五輪の翼

記念に保存しようと連続写真を探すとたくさんのメディアの写真家たちが腕を振るった作品が出ている。角度、コマ数など様々である。転倒部分が出ているものもあれば出ていないものもある。色合いも様々。

選んだのは産経新聞に出た桐原正道氏撮影のこちらの写真。






20コマで10コマ目が頂点。綺麗な衣装と会場のブルーも鮮やか。転倒部分と着氷ポーズもキチンと入っている。

そして何よりも気に入ったのは- 頂点が丁度五輪シンボルの中央にかかっている。五輪という最大の舞台で人類未踏の挑戦をして限りなく完成に近づいた羽生選手の真実を一番よく捉えていると思う。

6分間練習でも2本?跳んで転倒している。五輪の本番で得られるアスリートとしての最上の喜びと最大の高揚をもって限界を突き抜けられる、成功できる、と信じて、絶対に成功させると勇気をもって生命の全てをかけて跳び上がり回転し着氷しにいった現実の一瞬一瞬を全て捉えた写真である。

9コマ目で小さなシンボルをスプリングボードとして跳躍し10コマ目で大きなシンボルを翼として得た様にも見える。

最初から最後まで自身の迷いと疑いと不安の一切を制して、五輪シンボルの中央に座して、一切の魔物を従えて、勝つことを目指した一瞬一瞬の記録。ニースワールドで転倒後、心に生じた魔に立ち向かい3A+3Tに挑んだ17才の心意気を思い出した。あの時の何十倍も大きい闘いに何十倍も大きくなった27才が挑んだ。

僅か0.8秒ほど?に凝縮されたアスリート魂の結晶として尊重してゆく。

...写真を見ていたら言葉が蘇ってきた。

産経新聞:2022年2月10日付け記事

4Aの Ratify はまだこれから

演技終了直後に4回転アクセルを「ISU認定」と流したのを最初に見たのはスポーツ記者のツイターだった。「投稿は私見」と紹介している個人アカウントである。

観戦中は転倒直後に「DG(ダウングレード)ではない!UR(回転不足)だ!」「もしかしたらqかも」と嬉しく思っていたのでツイートを見て一瞬転倒したことを忘れてしまい(笑)「回り切ったと判定した??」と更に喜んでしまった。

次の瞬間我に返りスグに転倒を思い出し(笑)記者の認識不足と気付いた訳だが- 試合が終了しPDFプロトコルが出た頃にはニュースもソーシャルメディアもブログも「認定」祭りで飽和状態になっていた。

早速PDFを見ると 4A< となっている。

DGやURとなった場合は初成功したジャンプとは認定されない。またDG・UR・qでなく回り切っていたとしても着氷がクリーンでなければ認定することはない。それを理解していないメディアの記者が「認定」の2文字を世に出してしまった。このスポーツ記者が最初のきっかけだったかどうかは知る由もないが「4A認定」がメディア中を旋回し今やウィキにまで記載されてしまった。ツイター、ブログ、ネット、テレビのニュースなどありとあらゆる媒体で蔓延している。日本語圏だけの現象のようではある。

中にはURとDGの違いを強調してあたかも認定条件のようにとくとくと説明するヤマ師のような話までTVに出た様子。興奮して独自にロジックを作り上げてしまったのだろう。

悪意がないのは分かるが「認定」をするのはISUでありメディア媒体や記者ではない。回り切ってもqでもURでもDGでもプロトコルには4回転アクセルとして表記される。しかし表記される事は認定を意味するわけではない。その意味ではURやDGどちらの場合も同じである。

スポーツオンリーのメディアだけでなく大手メディアまで騒いでいたが一番疑問を感じたのは解説や専門家として加勢しているスケート関係者たちである。TVで一般解説の男性が「ニンテイだ、ニンテイだ」と言っている横に立ちながらノーコメントの元スケーター。本番中は言えなくともその前後に助言できるのではないだろうか。

他にも多くの老若男女の元スケーター達があちらこちらに出ているにも関わらず何らアドバイスの言葉は聞こえてこない。

羽生選手の4Lo初公認(2016年9月オータムクラシック)はクリーンに跳んだゆえに初成功と認定された。確か同シーズンそれ以前の試合で他の選手も4Loに挑戦してURだったり回り切っても手をついた等でクリーンでないゆえ「史上初」の正式認定はされなかった。

北京での羽生選手の4Aは五輪史上初の挑戦ではある。昨年12月のさいたまスーパーアリーナでの4Aは全日本選手権史上において初挑戦である。どちらもプロトコルにエレメントとして4Aが初登場となった。

ISU公認の国際試合での史上初挑戦でありプロトコル初登場は先月米選手権でも跳ぼうとしたドミトリエフ選手の2018年GPS露杯のFSである。DG(4A<<)で転倒だった。

負傷した羽生選手が優勝し松葉づえで表彰式に出た試合である。

まとめると-

1 全日本での初挑戦すなわちプロトコル初登場は2021年12月 羽生選手の4<<

2 ISU公認の国際試合での初挑戦すなわちプロトコル初登場は2018年11月GPS露杯 ドミトリエフ選手の4<<(転倒)

3 五輪での初挑戦すなわちプロトコル初登場が今回の羽生選手の4<(転倒)

因みにドミトリエフ選手はロシア国内での初挑戦者でもあると思われる。DGで転倒だったが2018年3月のロシアカップ・ファイナルで跳んだ。4Aの2文字を見たのは初めてと思いPDFを保存しておいた。リザルトページのPDFはこちら。全てロシア語でFS5位がドミトリエフ選手である。

初成功の認定はISUからニュース発信される。サイト検索ですぐ出てくる。羽生選手の4Lo成功ニュースはオータムクラシックのレフリー、TC、TS2人の名前が記されている。

ISUニュース:2016年10月2日付け 

こちらは宇野選手の4F認定のニュース。羽生選手の4Loニュースより内容が簡素。

ISUニュース:2016年4月29日付け 

因みに、どのジャンプもそうだがDGとなった場合、基礎点は一段下のジャンプ扱いになるがジャンプ数としては一段下とはカウントされない。つまり、4A<<となった場合基礎点は3Aの8点となるが3A1本とカウントされる訳ではなく、あくまでも4A1本とカウントされる。全日本での羽生選手が4A<<となっても3Aを2本跳んでいたのを見れば分かる。

英語では Ratify が日本語でいう所の「認定する」に当たる。しかしISUのニュース記事ではこの単語が使われていない場合もある様子。またニュースリリースはしても統計ページには出していない。あまり重要視していない?

Ratify されるもされないも五輪の舞台で4Aを跳んだ事実とそれを歓び祝い称えてゆく幸せを感じることが自分には大切と思っている。その上で、喜びの最中に水を差す内容かもしれないが将来真の4A認定が発生した際に混乱がないようにと願いつつ記事を上げる次第である。


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ご訪問頂きありがとうございます。
皆さまご健康で安全に過ごされますように。





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